データアクセシビリティと欧州における宇宙主権の未来

データアクセシビリティと欧州における宇宙主権の未来

Scenes and Signalsのシリーズでは、これまで北米とラテンアメリカにおけるSAR衛星の可能性について取り上げてきました。本回では、ミュンヘンを拠点にSynspectiveの新たな欧州事業を率いるIain MacInnesが、欧州に焦点を当てます。


2022年2月にロシア・ウクライナ戦争が勃発した際、欧州各国の政府は、自らの国境のすぐそばで起きている戦争の大部分を、他国が保有する画像やインテリジェンスに頼って追跡せざるを得ない状況に置かれました。多くの国がたどり着いた結論は同じでした。自国の領土で何が起きているかを知る手段が、他国の政府の許可によって左右されるものであってはならず、この教訓は防衛分野にとどまりません。欧州から遠く離れた場所での出来事が、数日のうちに欧州の市場を動かし、欧州の計画に実質的な影響を及ぼします。安全保障、異常気象、重要インフラのモニタリングなど、ミッションが何であれ、各国政府は自らの条件で監視できる能力が求められています。こうした考え方は、部品製造から国内での打上げ、運用に至るまでサプライチェーン全体に及んでいます。そして、5年前には衛星を開発していなかった国々も、この分野に参入するようになりました。フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国といった既存の宇宙プログラムを持つ国々と並び、フィンランド、ハンガリー、ノルウェーなども独自の宇宙エコシステムの構築を進めています。

その結果として生まれているのが、数多くの小規模な国家コンステレーションです。2~3機の衛星を打ち上げた国は、自国の旗を掲げた自国の資産を持つことになり、それには確かに価値があります。しかし実際に得られるのは、1日1回、あるいは数日に1回という再訪頻度です。これは環境モニタリングにおいてさえ疑問が残る頻度であり、国境や沿岸の監視、刻々と状況が変化する危機への対応には、まったく応えられません。こうしたミッションでは、時間帯や天候によって観測記録が途切れることが許されない条件の下で、毎日の観測カバレッジが求められます。

その不足を補うはずのものが、データの共有協定です。しかし実際には、資産を保有する国が優先順位を決めます。自国の要求が最優先され、パートナー国は保有国が共有可能と判断したものを受け取るにすぎません。共有協定に頼る国は、データが最も重要となるまさにその瞬間に、他国の判断に依存せざるを得なくなります。しかも、全ての解析内容が含まれているとは限りません。切迫したニーズは現実に存在するにもかかわらず、その要求は満たされないままなのです。

ここで、「主権(sovereign)」という言葉は、一般に考えられている以上に慎重に吟味されるべきでしょう。現在、欧州各国が打ち上げている衛星の多くは、契約に基づいて民間企業が製造・運用し、データ処理やダウンリンクまで担っています。衛星には国旗が掲げられていても、ミッションを動かしているのは産業界です。これを「主権的」と呼べるのであれば(私は呼べると考えています)、主権の本質はそもそもハードウェアの保有ではなかったことになります。本質は、要求が確実に満たされるという保証にあったのです。日本の防衛省も今年、同じ教訓に基づき、衛星コンステレーション事業を民間事業者のコンソーシアムに発注しました。これはPFI(Private Finance Initiative)方式によるもので、産業界がコンステレーションを構築・運用し、防衛省は複数年契約でそのサービスを購入します。要求は満たされ、データは防衛省に帰属します。さらに、投資を続ける理由を与えてくれるアンカー顧客の存在によって、国内産業も成長していきます。

つまり重要なのは、資産台帳に何が記載されているかよりも、アクセスの条件なのです。専用のアクセス保証とは、国が必要な撮像を自らタスキングし、データを直接ダウンリンクし、最終的にそのデータを所有できることを意味します。他国の優先リストのなかで自国の要求が生き残れるかどうかを、第三者が決めることはありません。

これに対するもっともな疑問は、危機の際に2つの顧客が同じパス(衛星の上空通過)を求めたらどうなるのか、というものです。アクセス保証を提供する事業者であれば、顧客に問われる前に、その答えを用意しておくべきです。答えの一部は規模にあります。数日ではなく数分単位で再訪できるほど大規模なコンステレーションであれば、パスの取り合いは短い待ち時間に変わるからです。しかし、規模だけでは方針とはいえません。優先権はローテーションされるべきです。優先権を持つ顧客が、自らの順番を失うことなく、より緊急性の高いニーズを抱える顧客にそれを譲れる仕組みも必要です。そして、割り当てが単に最も高い金額を支払った者で決まるものであってはなりません。地震への対応に追われている政府に対して、「データが必要なら、もっと支払ってください」と告げることは、私たちが取りたい倫理的立場ではありません。

国境で差し迫った安全保障上の懸念を抱えながらも、複数の衛星を保有する現実的な道筋がない国を考えてみましょう。その国は、2〜3機の衛星を購入することができます。より大きな隣国によるデータ共有に頼ることもできます。あるいは、既存のコンステレーションへのアクセス保証を契約し、撮像計画を提出してデータを直接ダウンリンクすることで、今すぐ毎日の観測カバレッジを得ることもできるのです。国家プログラムを立ち上げるには、調達から打上げ、ミッション運用に至るまで何年もかかります。そうした立場にある国にとって、今後1〜2年で何が起こるのか、そしてコンステレーションを維持・更新するための長期的な予算を確保できるのかは、誰にもわかりません。

これは国家プログラムを否定する主張ではなく、産業界がそれに取って代わるべきだという主張でもありません。そうではなく、国家の宇宙資産を「完成された答え」とみなすことに異を唱えるものです。欧州の多くの国は最終的に、自国の小規模なコンステレーションと、それを下支えする契約ベースの能力の両方を持つことになるでしょう。契約ベースの能力は、再訪頻度や観測容量を補い、さらにはデュアルユースの能力をももたらします。これは主権における妥協ではありません。多くの国にとって、それこそが、必要なときに確実にデータを利用できることを保証する唯一の形の主権なのです。


Iain MacInnesは、Synspective Europe GmbHのマネージングディレクター兼CEOを務めています。業界で25年以上の経験を有し、グラスゴー大学で地理学の学士号(BSc)を、スコットランドのアバディーン大学で環境リモートセンシングの修士号(MSc)を取得しています。Synspective入社以前は、Vantor(旧DigitalGlobe/Maxar)で14年間にわたり、EMEAオフィス、営業およびカスタマーエクスペリエンスチームを率いたほか、エンタープライズ市場と公共部門市場における営業リーダー職を歴任しました。また、カナダのリモートセンシングソフトウェア企業PCI Geomaticsで国際営業を統括し、GeoRed Chileでは地中レーダー(GPR)部門を率いていました。欧州宇宙機関(ESA)、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合衛星センター(SatCen)をはじめ、地域の民生・防衛機関との取引において、事業の成長と製品の多様化を主導してきました。